時空のおっさんシリーズ

2chオカルト板で細々と続いてきたシリーズらしいが、匿名掲示板の特徴をうまくつかった壮大な遊び。2006年から現在進行形でまだやってる。
こちらから

時空のおっさんには南極のニンゲンほどのインパクトはないが、登場が同じ2006年というのはおもしろい。ニンゲンのほうはUMAなんだけど場所が場所だけにネタ投下が難しいという難点があり、立ち消えてしまった。中にはほんとに調査捕鯨関係者に凸してしまったうっかり者が出たほど、瞬間最大風速はすごいものがあったなあ。懐かしい。

その点このおっさんシリーズはよくできていて、これはUMAではなくフォークロアの類なので「誰にでも一次情報を書き込める」という優れた性質を持っている。ニンゲンの場合は調査捕鯨関係者を定期的に登場させないと信憑性が薄れていくし、一方で当事者になってしまうとボロが出るのは避けられないため、その第一報から「聞いた話なんだけど」といううわさ話(ロア)の体裁を取らざるを得なかった。なのでニンゲンは長期戦を戦うには最初から無理があったのだが、おっさんの方は「私もこんなことがあった」「俺もあった」という散発的な一次情報を重ねていくことで全体がなんとなく補強されていく、というおもしろい性質を持っている。
バリエーションを持つことが可能で、「時空のお姉さん」「時空あんちゃん」的な変換であれば構造を崩すことはない。いまは話の骨子も肉付けもほぼ固定されていて、このようなものだ。

・ある日誰もいない世界に突然迷い込んでしまった
・その中で自分以外に一人だけの他人に出会う。怒られることも、優しいこともある。
・その人は携帯(のようなもの)で誰かと話していたり、自分に携帯で電話をかけてきたりする(携帯以前の技術的背景は考慮される)
・その人によって(と思われるような状況によって)元の世界に戻ってくることができる
(・その人の顔は思い出せない、という締めがつくこともあり、ないこともある)

シンプルなだけに場所と登場人物を変えるだけでバリエーションが出てくる。友達にも似たような体験をした子がいたとか、「おっさん」を前から知っていた、などの小さなクリエイティビティも心憎い。
口裂け女や人面犬より遙かに演出しやすいし、なかなかよくできた都市伝説だと思う。

この「個々の証言の信憑性は薄いが、その数が補強する」という特徴は、一見都市伝説が自ずから持つ性質のような気もするのだが実はそうでもない。人面犬は確か九州方面から上京してくるという設定ではあったが、情報更新が信憑性を増すという構造は持たず、「だんだん上京している」という要素が最初から組み込まれていたに過ぎない。またどうしても「それ誰に聞いたんだよ」「友達のお兄ちゃんが友達から聞いたって言ってた」というソース源の問題がまとわりついた。「友達のお兄ちゃんの友達」が信頼置ける御仁かという問題はかなりの障害で、UFOやUMOにしても「元ブラジル空軍のマントル大尉が・・・」とか「宗谷の元船長の・・・」といった信頼に足る(ような気がする)肩書きがないとそもそも話として成立しない。「たま出版編集長の・・・」ではまずいのだ。(マントル大尉がよくて韮沢さんがダメってのは酷い話だが)
そこをクリアしてしまうのが「ネットワークの匿名性」という特に日本で特徴的なネットの性質だった。誰もが「名無し」として書き込める場所では全ての書き込みが名無しの下に等価で、たとえ一人が100の書き込みをしても基本的にそれは100人の他人が発話しているのと同じこと。(匿名性の本当の問題は書き込みの責任どうこうではなくここにあるんだけどね・・・)
こういったことをSNSでやるのは無理とは言わないが相当の労力が必要で、mixiではできないだろうなと思ってコミュニティを検索したら「時空のおっさん」コミュがあってびっくりした。でも残念ながら、体験者を名乗る人は一人もいない。つまりそれは、そういうことなのです。
まあそんなわけで、これは電子-文字ネットワーク時代のオカルトが獲得した、新しい都市伝説の伝播生成スタイルと言える。でも07年に建ったコミュに体験者が一人もいないってのはよくないなあ。しかしSNSに組み込まれてしまうと前述の情報源の問題が出てきてしまうし、ここは難しいところだ。

ただ…これはこんなあからさまなネタだからいいとして、問題はこういった伝播スタイルが風評被害になってしまうことがたまにあることだ。たとえば神田●樹のヅラの話とか、風評もいいとこだと思うんだが・・・。出版社を訴えるようなこともできないしね。これはネットで広まって数年経って忘れ去られた頃に携帯を通じて若年層に広まっているのを確認したことがあり、由々しきことだなあと思った次第です。