ダ・ヴィンチ・コード読了

こちらの勘違いによる最初の肩すかしを乗り越えると、かなりおもしろかった。
娯楽小説だけど、オカルト好きにはたまりません。

おそらくこのジャンルでは数段上手の「薔薇の名前」を読もうかな、と思わせてくれた。

ただ、「ダ・ヴィンチ・コード」自体はおもしろかったものの、文庫本三冊も買って5時間もかけて読むほど時間投資するものかどうかは微妙。映画化されるそうなのでそっちみりゃよかったかなと思わせられたのも確か。

「薔薇の名前」は逆に、先に映画を見なきゃ良かったなあ・・・

book:揺籃の星

なんだか近所の古本屋が僕の購買パターンを知ったのか、創元SF文庫のJ・P・ホーガンが大量に補充されていた。ハヤカワSFも結構増えてきた。ぜひニーヴンを補充して欲しいところだ。
ホーガンについてはガニメデ三部作に加え「創世記機械」まで読んでしまい、いいところも悪いところも(どちらかと言えば悪いところが)見えてきて食傷気味ではあったのだけど、「ハード+パニックSF」という帯の文字にB級SF好きの血が騒いでしまいついレジに持っていってしまった。これはホーガンの邦訳済みでは最新作で、「金星は木星から生まれた彗星だった」というネタを背骨に持つ。元ネタについては少々うるさいが版元に解説が載っているのでそちらをどうぞ。

読んでみると、ホーガンでは「星を継ぐもの」と匹敵するほど読ませる。読みやすくスムーズに話を進めほころびを見せないあたり、こちらのほうに軍配を上げたいという気もする。しかしクライトンばりのパニックアクション小説としてのあざとい狙いが見え見えではあるし、「月面で発見された真っ赤な宇宙服を来た人間は、5万年前に死んでいた」という背筋がぞくっとするようなミステリーで幕を開けた「星を継ぐもの」と較べてしまうと、こまごまとした部分の高い完成度を考慮してもやはり今一歩及ばない。1999年に地球滅亡もの書いてるあたりがいやらしいし。

この人の本はどれをとっても科学に対する信仰心に溢れている。また迷信や、科学への無理解に対する敵意に満ちており、科学的な思考ができない者、しない者、迷信を信じるもの、そのようなものを徹底的に糾弾する。しかし一方で新しい本になればなるほどキリスト教にはごまを擦る回数が増えてくる。アメリカの作家にしてはがんばっているけれど越えられない一線というものはあるのだな(っていうか一時期こいつ確実に踏み越えて何かあったよね)と思わせてくれる。

いちおうこれは三部作らしいから出たら新刊で読んでしまうだろうな。でも映画化されても映画館には行かないというその程度だと思う。「デイ・アフター・トゥモロー」がこけた今、いまさらこういうのがハリウッド映画化されるとも思えないけれど。

NANA-ナナ-

 『ご近所物語』『天使なんかじゃない』の矢沢あいと言えば少女漫画ではかなりのメジャー漫画家だった。しかし現在も続刊中の『NANA-ナナ-』は矢沢あいを単なる売れっ子漫画家ではなくスーパーメジャーにのし上げたと言える。少女漫画にしてシリーズ12巻が累計2200万部というのが記録的であるというのもあるが、映画化されたりゲーム化されたりというに留まらず、劇中の歌手がデビューするに至っては既に漫画というジャンルを超えている。これは実在の人物を漫画に描いたわけではなく、漫画が売れたので後から決まった話である。映画とのタイアップ云々もあるが要するに漫画の主人公の名前を冠しただけで売れるということだろう。
 今や矢沢は現代の漫画家では『ドラゴンボール』の鳥山明、『スラムダンク』の井上雄彦、『名探偵コナン』の青山剛昌に並ぶビッグネームだ。

 で、その『NANA』を、あやがレポートの題材にするというので昨晩遅くに立川のオリオン書房に買いに行った。用済みになったらすぐ売り払えば古本屋が半額程度で買い取ってくれるらしい。さすが人気作である。閉店間際に12巻どんとレジに持ち込むと店員は超嫌そうに「カバーおかけしますか?」と聞いてきたが優しく遠慮してあげた。

 そんでそれからあやにつきあって最後まで読んだのだが(あやは読了を待たずに10巻くらいで見切ってレポート制作に入った)、『ご近所物語』の頃既に円熟とマンネリを迎えていたかに見えた作者の手腕はさらに上達していた。相変わらず恋愛空模様・大雨ふってときどき晴れ、みたいな内容ではあるのだが、巻を追うにつれセックス・浮気・妊娠・マリファナと「めんどくさい度」を大幅に増大させつつ風呂敷を広げまくっていく様は見事としか言いようがない。あきれかえるほどだ。

 まっとうにストーリーを解釈すれば、相反する性格の二つのキャラクターがあり、ひとつは独立独歩で出世していく。もうひとつは物欲の権化として欲しいものを手に入れ、最終的には子供まで手に入れる。そうやって自己実現をしたはずの2人がそれでもなぜか満たされない思いに悩み、互いを自分の断片として求める、という流れ。

 矢沢あいの他の作品は『ご近所~』しか読んでいないのであまり俯瞰したことは書けないが、この人は基本的に現実世界の消費文化を好いている。少女漫画独特のファンタジー要素としてオシャレな服やオシャレなアイテムやオシャレな部屋やオシャレな家具は外せないが、少女漫画はそれを表現する過程でリアリズムを放棄する場合が多い。しかしこの作者は現実世界の具体的な商品でそのファンタジーを構成できるため、結果、金さえ出せば少女漫画のファンタジーが安易に手に入るというしくみが関連グッズを買いあさる熱狂的なファンを生み出す、というのは『ご近所~』でも見られた現象だ。
 『ご近所~』で見せたヴィヴィアン・ウェストウッド偏重は今作でも全く治っておらずさらに症状が悪化してはいるが、学生が10万~の高級アイテムをふんだんに持っていた『ご近所~』とは違い、高卒OLである「奈々」とプロのミュージシャンを目指すインディーズバンドの「ナナ」という2人を軸として描く作品であるだけに、『NANA』では所得格差を明確に描いている。「なぜそんな高いものを持っているのか」というストーリーを明確にしている点がかなり目につき、気になった。
 これは作者なりのリアリズムの追求の結果と言っていいのだろうか。この作品が語られるとき必ずと言っていいほど「私の周囲でも起こっているようなリアルな恋愛事件が描かれているから」、という読者の感想が挙げられるが、これも決して無関係ではないだろう。一般的な尺度で言えば登場人物達は全くリアルではないが、少女漫画という範疇で言えば十分リアルと言ってよさそうだ。
 どのへんがおまえの周囲に起こってるんだとお尋ねしたいような女性がテレビのインタビューで「どうして『NANA』が好き?」という質問に答えているのをよく目にしたが、要するに卑近なのは装飾部分ではなく「友達づきあいがこじれちゃった」というストーリーの骨の部分。ま、心底どうでもいい内容なんだけど、女性的と言えばわかりやすすぎるほど女性的な悩みだ。

 あやが「親友を欲しがる女性の心理」という観点からレポートを書いていたが、なるほど的を射ているかも知れない。ワナビー

 Q 「なぜ親友ができないのか」 → A 「それはアンタらが余計なモンを間に入れるからです」
 
 「奈々」と「ナナ」を軸にしているとは言え実のところはこの2人別々に行動しているだけだ。超有名芸能人(ミュージシャン)への道をひた走る「ナナ」と超イケ面たちの間で芯の弱い女キャラとしてあっちへいったりこっちへいったりする「奈々」は、因縁があるように描かれているがここのつながりがかなりのズルで構成されており、最も弱い。冷たく見れば「親友に会いたいんだけど親友と元彼が仲良くて会いづらい」以上の関係ではない。ていうかそれは親友ではない。ここまで肉を削ぐとやってることは『ご近所~』と同じで、ディスコミュニケーションに悩み続ける若者の話である。あとはこの作者の才能である「感動的なワンシーンのうまさ」がひたすら光っている。

 とかこんなことやってないで仕事しないと・・・停滞していながらさらに上積みされたりして結構危険な領域になりつつあるんですが・・・

しあわせの理由 グレッグ・イーガン

読んだ本の感想を書くことにした。
感想が出てくるということはそれなりにプラスかマイナスに価値があったということだと思います。
数年後に日記を読み返して何か思うところがあるだろうか。あるだろうな。

ユリシーズを途中でほっといてなんですが。(つまらないのではなくなんとなくほってあるだけです。第二章の途中にいます。今新聞社あたり)

しあわせの理由 グレッグ・イーガン
短編。テッド・チャンを絶賛していたら仲田君から奨められた。名前はずっと昔から知っているが寡作な作家であるため遭遇確率が低く読んでいなかった。
以下ネタバレあり
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ユリシーズ

 『ユリシーズ』(ジェイムス・ジョイス著,1922)を読み始めた。
 ジェイムス・ジョイスという作家については、むかし両親のうちどちらかが『フィネガンズ・ウェイク』を読んでいたのを拾って読み、当然のごとく頭の中を記号が飛び交い、最初の数ページで読解不能を悟って投げたという記憶を以て終わっている。中学生の時分だろう。
 先日おばから河出書房新社版の『世界文学全集』をいただき、何から読み始めようかと迷った末、ジョイスの『ユリシーズ』から始めることとなった。古い全集なので『フィネガンズ・ウェイク』を91年に訳した柳瀬訳ではなく『フィネガンズ・ウェイク』と較べるのは無茶なのかもしれないが(柳瀬は96年にユリシーズ訳も始めているが現在6章までで未完のもよう)、意外に読みやすいというのが最初の感想。むしろけっこうおもしろい。僕が年とったからかな?
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