飛浩隆「グラン・ヴァカンス 廃園の天使 I 」

02年の作品ですが、海外SFばかりではなく日本ものも読まないとなと思って先日購入したもの。この続編の「ラギッド・ガール」というのが06年に出ていて日本SF界ではえらく評判なんですが、まだハードカバーしかないみたいなので(僕はハードカバーは読みにくいしかさばるのでどうしようもないとき以外は買わない)こちらにしました。

感想;特別面白くはないがそれなりのSF。他人におすすめはしない。
特記事項;文章の速度が体に合わない


おそらく文体の推敲が軽いのだと思うのですが、「ここでその単語選んじゃうの?」というケースが、特に物語の中盤を過ぎるころまで頻発しました。最近は翻訳文体に慣れ過ぎていたというのも確かにありますが、それにしてもあまりに無頓着に過ぎるのではという思いがします。著者が執筆時の「勢い」で特に必然性なく採用してしまったフレーズや、逆に日本語ネイティブに執筆されているが故に過剰に情報が詰め込まれたセンテンスによって、しゃっくりが止まらない早口の人の話を聞いているような、スピードが頻繁に変わる文章を読んでいるという感覚に陥るのです。(その点翻訳文体は、翻訳という作業そのものの持つ性質から、単語の選択や読者が一度に味わうセンテンス内の情報の分量にも意識が行き届きやすいのかもしれません。)

今までそういった「文章の速度」というものを意識したことはありませんでした。そういうことをとやかく言う人がいるのは知っていましたが、認識したことがなかったのです。しかしながら、この本のテキストは視覚的説明に富んだ表現を率先して採用していることは書いておかなければならないと思います。読まれる際のリズムを犠牲にしても、情景を懇切丁寧に描写する必要が著者にはあったのかもしれません。あらためて、文章を書くことは難しいということを教えてもらいました。そういう意味で、この本は僕にとっては今後貴重な一冊になるような気がします。

書評を見ても続編のほうが評価が高いようなので、そちらも文庫サイズになったら読んでみようと思います。好みの内容でもないのですが、5年前の一冊で否定するのも良くないと思いますので。

文体について感じたことがあったために久々に書評を書きましたが、内容でいえばはるかに好みの本に多く出会っています。

  • ジェイムズ・ティプトリーJr.「輝けるもの天より堕ち」(ハヤカワSF文庫)
  • ロバート・ソウヤー「さようならダイナサウルス」(ハヤカワSF文庫)
  • デイヴィッド・ブリン「キルン・ピープル」(ハヤカワSF文庫)
  • 福岡伸一「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)
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