屋久島・奄美大島顛末記 9/19

屋久島に来たからには縄文杉を見なくてはならん、と考えていました。一度見てしまった今となっては同じことは思いませんが、「世界遺産屋久島」の象徴である縄文杉を見ていないのですから、見てみたいと思うのは当然のことです。しかし、既に見てしまった私や現地ガイドの一部は、「縄文杉だけが屋久島ではないですよ」とこっそりと言うのもまた真実です。その理由はいくつかあるのですが、それはさておき。

縄文杉へのトレッキングは朝未明から登り始めるため、 到着一日目には行くことができません。山中一泊であればそれも可能かも知れませんが、多くの観光客は日帰りで縄文杉まで行きたがります。我々もご多分に漏 れません。山中泊の経験がありませんからね。しかし、もしもう一度縄文杉に行くのであれば、山中の山小屋で一泊するコースを採りたいと考えています。それ は、ここでは詳しく述べませんが、シャトルバスのみでしかアクセスできない現状(道路の一部が崩落しており一般車の通行は禁止)では特に、日帰りの縄文杉 トレッキングは時間制限がきつすぎるためです。屋久島の自然と縄文杉を堪能するにはペースがかなり早く、十分とは言い切れないものがありました。

屋久島 水の中を歩くかのようさ て、二日目4時起きでバスに乗り、登り始めるとすぐ雨が降り始めました。山の奥へ行くにつれ、雨の密度が明らかに増していきます。 雨だけでなく周囲を取り巻く空気も水気を孕み、足下には沢さながらの量の雨水が流れ、水で作られたアーチをくぐっていくかのような感覚に陥ります。これでも屋久島の天気予報 は「晴れ|曇り」です。(げんに登山を終え麓に降りてみると嘘のように晴れており、「下界に降りてきた」という感覚を強く持ちました。)

ガイドの受け売りですが、屋久島は地殻変動によって隆起した花崗岩の島。その表面に堆積する表土は平均1m程度の深さしかなく、保水力のない島の急な斜面を、大量に降る雨水は駆け下りるように流れ、海へ注ぎます。そのように土壌が貧困な島の環境は木々の生育に影響を与え、屋久島の杉は非常にゆっくりとした成長をせざるを得ません。結果、年輪が密になり油分を多く含んだ、腐敗に強く寿命の長い杉、1000年も生きる屋久杉を生むこととなったといいます。もうひとつ、この南国にあって標高があるため、厳しい冬がきちんと存在する「四季の存在」も、その理由として挙げることができるでしょう。屋久島の環境を考えてみれば、さまざまな要因が屋久杉を生んだことがわかります。

屋久島 トロッコ道トレッキングは先述のとおり日帰りですので、5時の終バスに間に合うように20km程度の登山をします。往復10時間。うち半分ほどは写真のようなトロッコ道と呼ばれる道路で、山林を管理している会社が現在も使っているトロッコ線路の間に渡された枕木兼遊歩道の上を歩いていきます。10時間の登山の間、休憩は一時間につき5分程度で、昼食と目的地である縄文杉で20分ずつ程度の休憩がとれます。ペースはかなり速いため、ガイド含め9人のパーティのうち、中年の女性の方が一人トロッコ道の終わりあたりでリタイアされました。

ガイドは必ずつけなければならないというものではありませんが、経験者か地図と時間を見てペース配分のできる登山者でないとこの日帰り日程はこなせないだろうと思わせるほどのペースでした。

トロッコ道が終わるといよいよ本格的な登山です。このために防水のGORE-TEXの登山靴を買い、大田区まで行ってレインスーツを借りてきたわけですが、この時点ですでにびしょ濡れです。雨対策の反省点としては、レインスーツのパンツと靴をさらにカバーする「ゲイター」が無かったこと、パンツのサイズが若干小さくて靴下が露出していたため、そこから雨水が浸水したこと、 リュックのレインカバーは気休め程度にしかならなかったこと、そして何よりmont-bellの一眼レフカメラ用レインカバーは屋久島の雨には無力であったという点などが挙げられます。

そうです。僕は一眼レフ(デジタル)を持ってこの雨の島を登ろうとしていたのです。

mont-bellというアウトドアメーカーがあって、関西の会社らしくアイデア豊富にさまざまな登山グッズを提供してくれているのですが、その中に一眼デジカメ用レインカバーというものがありました。縄文杉を広角で撮りたいと思っていた僕は当然購入し、準備万端とばかりに乗り込んだというわけです。

最初はこのレインカバーも十分に機能しているかと思われました。そもそもカメラを構えて写真を撮るような余裕のあるペースではなかったものの、直接の水滴は受けないので内部への浸水は避けられていました。しかし、本格的登山が始まりルートの中ほどまで差し掛かり、ようやく巨大な杉が見え始めたあたりでカメラを確認すると、既に「水滴を受けない」などといういう状況にはなく、全体的にびっしょり濡れてしまっていました。まずいと思ったものの登山がきつくなりかけていて、対処が遅れました。

レインカバーがなぜ有効でなかったかをあれからさんざん考えましたので、ここで僕なりの考察をつらつらと披瀝することもできましょうが、要するに雨が多すぎたわけです。完全に屋久島を舐めていたと言っていいでしょう。ウィルソン株に着く頃には完全に電源が入らなくなっていました。行った人にはわかると 思いますが、ここまでほぼ見所はありません。ここからが屋久島縄文杉トレッキングの本番なのです。ここからの行程は僕にとっては非常につらいものでした。もしかしたら泣いていたかもしれません。泣いたとしても雨で顔中びしょびしょですから、自分にもわからなかったと思いますが。

つづく。