ロード・オブ・ザ・リング

tolkien-jrr_s.jpg ちょっと前の話だが”王の帰還“をレンタルで見た。結局僕は指輪物語の熱烈な支持者でありながら、映画館には足を運ばなかったことになる。
 風景の第1作目、スペクタクルとアクションの第2作目に較べ、原作のテイストを最もよく再現しているのは第三作かもしれない。3時間23分という長作でありながら、冒頭から一気に終結へと突き進む「王の帰還」のスピード感がよく出ていた。前2作で違和感を感じた部分が既に消化されていて諦めがついていたというのもあるけれど、これはこれでいいのかもしれないとさえ思ってしまった。でもロードオブザリング映画版を見てから原作に触れる人は不幸だ。長さの問題もあるし、ファンタジーの映画化でいつも問題になる再現度の問題も依然としてある。原作を完全に映像で再現するのは今後も難しいだろう。
 指輪物語の他メディアへの進出にはいつもケチがついてまわっていた。アニメ化もゲーム化も第2巻が出ることさえ希で、「旅の仲間」までで頓挫するのが通常だった。それが今回の三作の映画化と、それを機に一気にEAが三作ゲーム化できたということは記念に値するだろう。しかしEAのゲーム化はいつもの版権ビジネスエンジンに載せただけのことであり、結局のところ「映画のゲーム化」でしかない。過去にInterplayが出していたような原作の忠実なゲーム化とはほど遠い。ま、どうでもいいか。
 映画の話に戻ると、もともと原作から「王の帰還」は前2巻で周到に用意された伏線が一気にカタルシスへ向け収斂していく章であるので、このハリウッド作品としても映画作品としても中途半端な作りの映画が多少感動を与えることができたとしても不思議ではない。
 でも僕が見たこの映画の1シーン1シーンは原作の同じシーンをはっきりと想起させてくれたので、その点では成功しているというか僕が見事にやられてしまった。馳夫に恋をするエオウィンが失恋をし、死ぬために戦場へと馬を駆ける、その心情が十分演技や演出やスクリプトで示されたとは言えないし、ファラミアとの出会いも適当にされてしまってはいたが、原作を知っている人にとってはエオウィンの物語はその重みを持って理解されるし、ピピンがナズグルの首領に突き刺した剣は、「ホビット庄の一の太刀!」と彼が叫ばなかったとしても、あの塚山でホビットたちが塚人に囚われたときに一緒に埋葬された剣のひとつで、はるか古代にナズグルを倒すことを目的に北方のヌメノール人が鍛えた業物であったのだ。そしてホビットたちがここに生きていられるのも、あの大地の人トム・ボンバディル(映画には未登場)がいたからこそであるのだなあと嘆息するのだ。
 要するに原作が提供していた細やかな因果応報の数々がかなり省略されてしまっているので、原作のすべてをこの映画から読みとるのは不可能である。しかし原作の一部分を忠実に再現してはいる。そういう原作のダイジェスト版としては非常に優れているし、僕が3度目か4度目に通読したときに初めて理解したミナス=ティリスの構造も一目瞭然である。その再現度には喝采をあげた。でも、映画からこの物語に入った人が本当に僕と同じ感動を得られるかというと無理だろう。アラゴルンがなぜゴンドールの王になるのか、映画だけ見ていて理解できる(覚えている)かどうかさえ怪しい。ただ長いだけのよくわからん映画になってしまってるんじゃないかなあ、と思いましたとさ。

とまあそんな話です。
その他難点は、
・半人半エルフのエルロンドの役の人がマトリックスのエージェントスミスの人で、どうしてもそのイメージが強くて原作のエルロンドのイメージが壊れまくった。今にも目から光線出して爆発しそうなんだもの。
・ホビットやドワーフを小さく見せるために合成を使っているのはよくわかったが、合成の技術がちょっとお粗末すぎやしないか。被写界深度の適合とかしてないんじゃ…。カメラワークも制限されているし、CGキャラ(ゴラム=ゴクリ)やCG背景との合成のほうがしっくりいっているというのはどういうこと。

“ロード・オブ・ザ・リング” への2件の返信

  1.  なかなか詳しいなあ。お宅というかマニアというか、けっこうなことや。今一なのは、読み手も関心があるだろうと前提してかかっていなはるな。文の書き方としては、詳細に入る前に、その対象への関心につながる餌をまいとかなあかんのや。せっかく、公共の画面に己をさらすなら、そこらへんやな。パイプ銜えたおっさんが、その役なら、ええのかなあ。

  2. わかる人がいるので、いいんですよ。
    その情報の価値について、個人のウェブサイトはその判断をいるかいないかさえわからない各々の読者に任せるべきで、所有者はあんま考えない方がいいと思う。誰かにとって有益かどうかを考えて情報を提供するのはヘビーですよ。仕事でそういうのやってる分、なおさら。