きだみのる 気違い部落周遊紀行

小説「気違い部落の青春」がたいへん良かったので、きだみのるの代表作と言われる「気違い部落周遊紀行」を購入してみた。冨山房百科文庫から出ており、絶版にはなっていない。こちらはルポルタージュの体裁を取ったもので、小説ではない。毎日出版文化賞受賞。

内容としては田舎を通じて都会を知ろうというもので、なかなか興味深く読めるものの「~の青春」を読んでしまっているとネタ帳を読んでいるような気になる。どちらかを勧めるとしたらやはり私は「~の青春」のほうを勧めたい。というのは、この「周遊紀行」に出てくる人物は実在の人物で、また地名もしかりであるので、いかに社会学的見地から興味深い事例であってもさすがに実名で書くのはやりすぎなのではないかと思わざるを得ないような記述が散見されるため。著者の意図は十分わかるのだが、おもしろいと思いつつもどうにも書かれた方が気の毒になってしまう。気違い部落と銘打たれた部落の人たちが、都市の人間から見ていかにおかしなことをしているか、しかしおかしいように見えてもそれは自分に当てはめてみれば同じようなことをしていないか、そういう構造を持っているのだけど、読者のすべてがそう理解してくれるものばかりではなかろうし、また読まないで笑うものも多かっただろう。この本の出版後部落の人とうまく交流できなくなった、とご子息が後書きに書いておられるが、それはそうなるだろうと思える。ただ、それもまた「俺たちの悪口でもうけやがって」という妬みの構造を持っていると解釈できるところが、この本のおもしろいところではあるのだが。

そんなわけで私はどちらが先、と問われたら、小説のほうをおすすめします。

カテゴリーbook